私はベトナム中部のダナンという街で生まれました。子どもの頃はチームで動くのが楽しく、サッカーに夢中でした。理系科目が得意だったので一度は大学の薬学部に進学するつもりだったのですが、本当にやりたいことを見つけたくて日本語学校へ。そこで運命の出会いがあったのです。校長先生は日本語だけでなく、大量の廃棄物や頻発する洪水などのベトナムの社会問題も教えてくれました。「日本で勉強してベトナムを救ってください」という校長先生の熱い言葉に心を動かされました。私は化学が好きだったので、日本の大学でエコ素材の研究をしようと考え、有機化学を専攻することに。クラボウに入社する際には、環境問題に関われる仕事を希望し、現在の部署に配属されました。
世界中で大量の衣服が捨てられています。しかも、新たな衣服へのリサイクル率は1%にも満たないと言われています。衣服を作る際にも、Tシャツなら7着で1着分もの裁断くずが発生し、その大部分は廃棄されているのが現状。そこで私たちは「もったいない」裁断くずを「もっといい」商品に変えられないかと考えました。
クラボウが開発したL∞PLUS(ループラス)は、裁断くずを繊維に戻し、再び糸にして新たな付加価値商品を生む、というアパレルメーカーなどとの共同の取り組みです。従来は、綿などの天然繊維では質の良い糸に再生するのは難しいとされていましたが、私たちは130年を超える歴史の中で培ってきた紡績や織布などの技術と開繊・反毛のノウハウを活用。良質な繊維を取り出し、強い糸に再生することができます。その糸を使って裁断くずの豊かな風合いをデザインに生かしたアパレル商品や、雑貨など繊維以外のものにも生まれ変わらせる「アップサイクル」を実現しました。
例えば、Tシャツの裁断くずが、パンツやバッグなどの繊維製品はもとより、ノートなどの紙製品やプラスチック製品へとアイテムを超えてボーダーレスに生まれ変わります。さらに今後は、裁断くずの出ないニット製造技術との組み合わせなど、資源を有効活用するための新たな技術開発にも取り組んでいます。L∞PLUSの取り組みを活用し、私の母国ベトナムをはじめ、世界中の企業と共創してサステナブルなしくみを拡げていきたいです。
日本経済新聞、日経産業新聞、フジサンケイビジネスアイなどでシリーズ展開中